ミニコラム 「橋のこころ」
『あんぱんまん』
2023-08-12
ある日お迎えのとき、さくらぐみのIさんが、ご家族に「あんぱんまんをかりたい」と言われているのが聞こえてきました。
ご家族はあのなじみのある姿を思い浮かべられたのでしょう、「そんな本、ここにあるの?」と答えておられましたが、Iさんは、本棚からこの絵本を手に取り、「あんぱんまんかりていい?」と、近くにいたわたしにもってきてくれました。
もちろん!と答えて、貸出の手続きを終えると、ご家族も「アンパンマンってこんな絵本もあるのか」と驚かれながら、おふたり笑顔で降園されました。
『あんぱんまん』
作・絵 やなせたかし フレーベル館 1976年出版
あまくておいしいあんぱんでできた自分のかおを、おなかをすかせた人や、こまっている人にたべさせてくれ、元気にしてくれる。
そんないままでに出合ったことのないヒーローがあんぱんまんです。
わたしもまだ小学生だった頃、図書室でこの絵本に出合いました。
子ども心に今まで見たことのないそんなヒーローのすがたに心惹かれ、とても面白く、魅力的に思った絵本です。
このあんぱんまんは、いまなじみのある姿とはずいぶん違います。
等身もひとと同じくらいですし、やぶれたマントにはつぎはぎがあります。
また、「ぼくのかおをたべなさい。」といわれた旅人も「そんなおそろしいことはできません。」と、いちどことわるのです。
それでもIさんがこの絵本を手に取ったように、子どもたちの心をひきつけてやみません。
その理由は絵本の最後に書かれた、やなせたかし氏の想いがあるからではないかと思います。
ーー
ほんとうの正義というものは、けっしてかっこうのいいものではないし、そして、そのためにかならず自分も深く傷つくものです。
そしてそういう捨身、献身の心なくしては正義は行えませんし、また、私たちが現在、ほんとうに困っていることといえば物価高や、公害、飢えということで、正義の超人はそのためにこそ、たたかわねばならないのです。
あんぱんまんは、やけこげだらけのボロボロの、こげ茶のマントを着て、ひっそりと、はずかしそうに登場します。
自分を食べさせることによって、飢える人を救います。
それでも顔は、気楽そうに笑っているのです。
ーー
本当に深い想いから生まれたあんぱんまんだからこそ、いまたくさんの子どもたちに永く愛される存在になったのだと感じます。
そして、本当の”正義”とはなんなのか。
読み返したいま、わたし自身も、あんぱんまんに多くの考えるべきことをおしえてもらえるように感じました。