ミニコラム 「橋のこころ」
『よあけ』
2023-09-02
『よあけ』
ユリー・シュルヴィッツ/作・画 瀬田貞二/訳
福音館書店 1977年出版
夏の夜、湖のほとりで過ごすおじいさんとまご。
やがて少しずつ、少しずつ、夜が明けていく。
ふたりは朝食をとり、やがてボートで湖に漕ぎ出す。
その静かな姿が、水彩の濃淡がにじむような風景で描かれた美しい絵本です。
月が西へ傾くにつれ、景色の輪郭が浮き出てくる夜明け前。
おじいさんとまごが毛布にくるまって寝ている様子をみていると、感じるはずのない毛布のあたたかさとともに、かつて同じように空の下で過ごした時の記憶が、かたちをもたないまま思い起こされるようです。
はじめて空の下で夜を過ごしたときの心細さ。
暗闇の向こうでそっと何かが息をひそめているような気配と、樹々をゆらす風に混じるささやきのような音。
やがて少しずつ明るくなっていく風景に、ページをひらくたびに目をみはります。
それはもしかしたら、かつて自分も感じたよあけの美しさと、そのときにそばにいてくれた大好きな誰かの記憶が、よみがえるからかもしれないと思うのです。